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地上の楽園は此処に #05

#05

遺されたのは、ボロボロになったICレコーダー。
その“音”を記録した、ICレコーダーだけだった。

最期の願いを。
最期の言葉を。
最期の瞬間を。
愛した人の命が消える“音”を、記録したそれ。
そんなものだけが、俺に遺された。

「だからさ、聞こえなくなったんだ。いや、聞くことを拒絶したって言うべきかな」
「……」
「死んだという事実を受け入れたくなくて、拒んだ」
「……」

それからの俺は、“音”が聞こえなくなった。
聴覚がどうこうなってしまったという身体的な意味ではなくて。
音楽も喧騒も人の声も、もちろん聞こえる。
ただ、身体の中に入って来なくなってしまったのだ。
心、と呼ばれている場所に、“音”が。

「ずっと、そうだった。だから、これからもきっとそうなのだろうと思っていた」
「……」
「でも、あの日…お前の“声”だけは、違ったんだ」

耳ではなく、頭の中に直接響いてきた。
まるで、砂漠に降る雨のように。
乾いて罅割れた心を潤すように、染み渡った。
拒絶し続けていた“音”が、それこそ心の奥底まで響き渡ったのだ。

「俺はいまだに過去を引きずって、忘れることのできない情けない男だ。それでも…」
「それでいいんです」
「え?」

口を噤んで、じっと俺を見ていた綺麗な瞳が微かに細められる。

「あなたはそれほどに誰かを想うことのできる優しい人なんですね」
「夏芽…」
「もっと教えてください。あなたのことも、あなたが想っていた人のことも」
「……」
「ひとりで抱えるのが重たいと言うのなら、その過去を一緒に背負います」

きっぱりと言い切る彼の眼差しは、とても強くて。
あのときと同じように。
彼と出逢ったあの瞬間と同じように。
その“声”は耳ではなく、頭の中に染み渡る。

「だから、愛していた人のことを忘れないでください」

忘れてはいけない。
どんなに忘れたくても、苦しくても、忘れてはいけません。
哀しい記憶を抱えたあなたを。
そんなあなただから、私はあなたを愛します。

そう続けられた彼の“声”は。
その“言葉”は。
色鮮やかに、温かく、優しく、労わり、愛おしむように。
心の真中へと、確かに聞こえてきた。

  ノイズだらけの世界で、君の声だけが鮮明だった

(2014.02~2014.03)


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2017-03-29
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