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聖域に降る光と旋律と #01

#01

涙は口をきかない哀しみの言葉だ、と言った人がいる。
ならば、涙を流すことを忘れてしまった彼は、哀しみの言葉をどうやって吐き出すのだろうか。

「そのうち、窒息しちまいそうだな」

胸に痞えていることに、彼は気付いていないかもしれない。
苦しいことが当たり前で。
何が“苦しい”のか、何が“哀しい”のか、それにさえ気付いていないのかもしれない。
そんな彼に、自分は一体何をしてやれるのだろうか、といつも思う。
大人の醜いエゴと必死に戦う、あの愛しい少年のために。

「いっそのこと、攫っちまうか」

彼を苦しめる大人のいない、遠い国に。
彼のことを知る者のいない、海の果てに浮かぶ名もない小さな孤島に逃げてしまうのもいいかもしれない。
冗談混じりの、しかし、本気の比率が高いそんな己の思考に苦笑し、フェルナンドは彼がいるだろうテラスに足を向けた。
だが、その足は朝陽が降り注ぐそこに踏み出す寸でのところで止まる。

「……ナオ…?」

ふわり、と舞い込んでくるカーテンの向こう。
惜しみなく陽光を浴びて立つその姿に、目が眩んだ。
まるで、スポットライトを浴びているかのようで。
あぁ、やはり彼はそこに立つに相応しい人間なのだ、と。
どんなに苦しんだとしても、彼はそこに立つことから逃げない強さを秘めている、と思う。

「…そうか、だからお前は…」

ヴァイオリンが、静かに歌を歌い始める。
その切なげな旋律は、ひどく美しく。
そして同時に、胸が痛むほど哀しげなものだった。

「…音楽は神と交わす言葉だと言っていたのは、誰だったかな」

切々と、深々と、紡がれる旋律。
あぁ、涙を流すことを忘れてしまった彼の哀しみの言葉は、これだったのか。

「ナオ…直栄、」

衝動のままテラスへ下りたフェルナンドは己の中にある何かに突き動かされるように彼に駆け寄ると、背後からその細い身体を抱きしめた。

「あ、フェルナンドさん…おはようございます」
「ナオ、ナオ…」
「はい?」
「俺はお前のその苦しみや哀しみごと愛すから…愛して、いるから…」

脈絡のない告白に戸惑う声を食むように、彼の唇を塞ぐ。
いつか、神ではない自分にも理解できる言葉をこの唇が紡げるようになったなら。
そのときは、旋律に乗せられた哀しみの言葉を抱きしめて。
忘れてしまった涙を思い出したときは、共に泣こう。
それまでは、どうか彼が哀しみに押し潰されてしまわないように。
ミューズの加護がありますように、と祈らずにはいられなかった。

  幸いあれ、幸いあれ…どうか、君に、詩神の優しい祝福あれ

(2013.06~2013.07)


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2013-11-09
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