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ルーチェの終末

神は死んだという。
悪魔も死んだという。
ならば何故、世界から光と闇は消えないのだろう。




闇と静寂に包まれた、神聖なる神の住処。
無言の救世主に見下ろされながら、彼はその胎内に溶け込むかのように佇んでいた。
聖職者でありながら、神など信じないと言う異端の使徒の継承者。

(やはり、地上にも天使はいるものだ)

漆黒の黒髪と同色の聖衣を纏い、救世主の足元に跪く司祭の横顔を見つめ、ライは瞳を細めた。
彼を知る多くの人間が我が目を疑うほど、優しげな眼差しで。
その手を血で濡らし、闇の世界に君臨する男が持つにはあまりにも相応しくない穏やかさを孕んだその眼差しで、白皙の司祭を見つめる。

白い月光を食むステンドグラスから降り注ぐ静謐な光のベールで覆われたその司祭。
ラファエルは、音もなく、涙を落としていた。

(美しい…)

贖罪を請うように。
祈りを捧げるように。
使徒が救世主の死を嘆くように。
涙が、頬を伝い落ちていく。

清廉で美しい光景に、ライは呼吸をすることさえ忘れた。
ここに敬虔な聖職者がいたならば、跪き、「神よ」と祈りを捧げただろう。
それほどに、神々しかった。

血塗れた自分が踏み入ってはいけない、と躊躇させる。
同じ黒衣を纏いながら、全く相反する存在。
何度、罪と業に穢れた手で触れることを咎める声を聞いたことか。
そして何度、胸に去来する背徳的な優越感で耳を塞ぎ、その声が聞こえぬ振りをしたか。

今もまた、耳を塞ぎ、大理石の床を1歩踏み込む。
カツン、と革靴の踵が当たり、乾いた空気を震わせる。
それはラファエルにも届いたようで、突然の侵入者の気配に驚き、頭垂れていた顔がばっと上げられた。

「……ッ!?」
「ここでお前の涙を見るのは、何度目だろうな」

瞠目された漆黒の瞳から、大粒の涙がぽろりと落ちた。
それを袖口で拭い、「見られてしまった」とバツが悪そうにラファエルは視線を彷徨わせる。

「…いつから、いらしたんですか」
「いつからだろうな」

いつの頃からか、足を踏み入れることを拒絶されなくなった祭壇前の台座に上がり、ライはラファエルの細い身体を抱き寄せる。
触れた白い肌は冷たく、血色を失い青白くなっている。

「どうしてあなたには、嫌なところばかり見られてしまうんでしょうね」
「隠そうとするからだろう」
「隠させてくれればいいのに」
「それは無理な相談だな」

背中に腕を回されるようになったのは、いつだったか。
布越しに伝わる体温に、愛しさが込み上げる。

たとえ、彼が解放を希い泣き喚こうが、もうこの手を離すことはできない。
その背に翼を隠し持っているというのなら、二度と飛び立てぬように純白のそれを奪い、彼をこの教会に繋ぎ留めるだろう。
彼を傷付けることになったとしても、自分はそうするに違いない、と内心で己のひどく冷静な冷酷さに微苦笑を落とす。

「お前の涙は美しいが、俺のためではないそれは見たくないな」
「ふふ、何を言っているんですか」

肩口に押し付けたせいで、くぐもった声でくすくすと小さく笑う。
それが微かに震えていたことには、気付かぬ振りをして。
柔らかな黒髪をくしゃりと撫でる。
慈しむように、愛おしむように。

「……ライさん、」
「あぁ、何だ」
「…少しだけ、怖く…怖くなったんです」

ふとした瞬間に垣間見る、彼の心の最奥にある“何か”。
神などいない、信じてなどいない、と言い、それでも祈り続けるこの若き司祭は。
一体、その最奥に何を抱えているというのか。

まだ触れることを。
知ることさえ許されていない涙の理由を質す言葉を飲み込み、ライは音もなく流れていく水滴を指の腹で拭ってやる。

「何が怖い?」
「ただ、漠然と」
「そうか」

涙で上等なスーツが濡れることも厭わず、強く、きつく抱き寄せる。
愛しいと初めて心底想ったこの存在が、これ以上傷付くことがないように、と祈らずにはいられない。

神の名を口にすることさえも許されてはいけない自分が。
人を殺めることを厭わないこの手で。
信じてもいない神に、祈ることしかできないのだ。
切に、ただひとりの存在に幸多かれと祈ることしか。

(もどかしい)

歯痒さ、とでも言おうか。
胸を掻き毟りたくなるほどのそんな感情を持て余していることなど彼に知る由もなく、腕の中でラファエルが小さく身じろぐ。

「…あなたは」
「ん?」
「あなたは、私を置いていかないでくださいね」

ぽつりと腕の中で零された、血を吐くようなその痛々しい声音に思わず息を飲む。
疼痛を訴える漆黒の瞳は濡れ、救済を請うているかのようで。
鋭利な刃物で深々と刺されたかのように、心臓が痛む。

「ラファエル…」

こんなとき、多くの言葉を使ってこなかった過去の自分を恨みたくなる。
返してやるべき言葉が、分からない。

「………」

どんな言葉を使えば、彼の痛みを消してやることができるのか。
彼が望んでいるのは、どんな言葉なのか。

「ラファ、」

だが、それでも。
偽りの言葉だけは、彼に告げてはいけないと本能が言う。
ライは、唇を開いた。
残酷なそれを、紡ぐために。

「約束は、できない」

死神と歩む闇の世界。
そこで生きるライにとって、“明日”の保障はない。
いまこの瞬間ですら、瞬きの間に奪われるかもしれないのだ。

「ライさん…」
「それでも、俺はお前を手離すことなどできない。だから、」

抱きこんだ痩身を解放し、向き合う。

「お前は道連れだ」

濡れた黒曜石の瞳を瞠り、じっと見つめ返してくるラファエルに薄い微笑を向ける。

どこまでも清冽に美しい黒曜石の瞳に宿った、光。
それが失われたとき、果たして自分は正気でいられるだろうか。
お前のために生きてやれないと言いながら、そんな無責任なことを考える。

「遺してなどいってやるものか」

人はそれをエゴだと言うだろう。
だが、これは最も残酷な愛情だと思う。

「俺がこの手で、殺してやる」

瞠目した瞳から落ちる涙が、ぱたっと止まる。

「そのときになって、怖気づかないでくださいね」
「俺を誰だと思っているんだ?」

図らずも、自分の言葉は彼が望んだものだったのか。
ラファエルは、ゆるりと艶然な微笑を浮かべた。
そして、小さな笑みを乗せた唇を開く。

「あなたの手で、私を殺してください」

乾いた大地を潤す恵みの水のように。
傷付いた身体に癒しを与える温もりのように。
穏やかなラファエルの声音が、ライの細胞に沁み込んでいく。

「あぁ、お前に触れていいのは俺だけだ」
「この身を焼くのは、あなたの業火であって欲しい」

淀みなくそう続けたラファエルに、ライは少年のあどけなさを残している頬を両手で包み込んだ。

この存在は。
この儚くも強く、美しい青年はきっと。
血で穢れてもなお、美しく在るであろう。
それはまさに、醜いエゴでさえも抱擁してしまう海容の存在そのもの。

(あぁ、そうか…)

神も悪魔も死に絶えた、この腐敗した世界。
それでも太陽が輝くのは、緑が茂るのは、風が吹き抜けるのは、大地がそこに在るのは。
“光”が、生きているからなのか。

神は、やがて世界は光を失い、終末を迎えるだろうとのたまった。
そのいつかが訪れ、光とやらを失った世界を見てみたいと思う。
きっとそこには、闇よりも深い闇の中で輝くこの“光”があるに違いない。
地獄の果てに堕ちた彼が凛と佇むその姿が。

「神の祝福を享受する天使よ、お前は気高く美しくあれ」

世が終末を迎える、その瞬間まで。
死に絶えた大地に、ひとり佇むことになろうとも。

「愛している、俺のラファエル」

神は死に、悪魔も死に、そうして光が失われるいつか来る終末の世界。
廃墟と化した教会に棲まうこの黒衣の天使の足元へ跪き、誓おう。
永遠の愛を。
この最愛の存在に。
甘美なまでに残酷な愛を、捧げるために。

いつか必ず来る、“光”との永訣の瞬間を想いながら。
宣誓と共に、唇を重ねた。

  あなたを愛するための代償だと言うならば、何度でも業を背負い、罪を犯し、悪魔にすらもなりましょう


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でも、何だかんだで強いのはラファ。
ボスはきっとダメです。ラファを失ったらダメになるタイプ。
ラファは何だかんだ言いながらも、ボスを失っても喪失感に堪えて、抱えて、背負って生きていけるタイプ。

ルーチェ(luce/イタリア語)=光
2009年3月1日勢いとノリだけで初出/2013年11月9日ほぼ修正なしで限りなく当時の原型のまま再出


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2013-11-09
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