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さぁ、その純白のアーラで

「“裏切り者には死を”。その言葉、忘れたわけじゃないだろう?」

パン、と。
乾いた音が、闇を切り裂く。
プライドも何もかもをかなぐり捨て、泣きながら命乞いをしていた哀れで愚かな反逆者の悲痛な叫びは、その音に掻き消される。
そして、鮮血に彩られた命が無機質なコンクリートの上に散った。

「……」

1秒前までは人間だったものの塊を一瞥することもなく、ライはそれに背を向ける。
馴染んだ硝煙と血の匂いが。
因果を謳う死神の気配が。
その後を、足音もなく追ってきた。




「どうぞ」
「あぁ」

差し出されたコーヒーを受け取れば、挽き立ての香ばしい豆の香りが鼻腔を擽った。
雨上がりの森を思わせる、深い香りだ。
凛と静謐なようでいて、どこか懐かしさを感じさせるそれに、張り詰め続けていた神経が解されていくのを感じる。
力を抜く、ということを最近ようやく覚えた身体をソファに預け、ライは何の躊躇もなく隣に腰掛けたラファエルをちらりと盗み見た。

手を伸ばせば触れられる距離に。
隣に、彼がいる。

(警戒心の強い小動物も、懐けば無防備な顔を見せるものなんだな)

こんな光景を当たり前だと感じるようになったのは、いつからだっただろうか、と思う。
出逢ったばかりの頃は、視界にすら入るなと言わんばかりの憎悪が向けられていた。
しかし、それが今では、無防備な横顔を何の躊躇もなく晒しているのだ。
まるで、彼もこの光景が当たり前だと感じているかのように。

(…それにしても、相変わらず眉ひとつ動かさないな)

細い腰をぐいっと引き寄せれば、必要最低限な言葉しか話さない物静かな彼はただ黙して、身を委ねてくる。
だが、彼が気付いていないはずがない。
互いの鼓動が感じられるほどに密着している今、気付かないはずがないのだ。
自分を抱き寄せているライの上等なブラックスーツに染み付いた、硝煙と血の匂いに。
馴染んでいるはずのライでさえ、着替えるべきだったかと思うほどに、濃く纏わりついているのだから。

しかし、ビスクドールのように整った端整な顔には不快感も疑問もない。
何があったのか、決して問うこともしない。

「…ラファ、」

無感情だから?無関心だから?
いや、違う。
彼は、許容しているのだ。
硝煙と血の匂いを纏わせ生きる自分という存在を、その世界ごと包み込むように。

「…ラファ……」

あなたが無事なら、それでいい。
それ以上は何も望みません。

唇よりも饒舌な黒曜石を思わせる漆黒の瞳が、そう静かに告げている。
とうに失っていたと思っていたはずの心が。
はじめから自分にはなかったと思っていたはずの心が、その存在を主張するかのように、込み上げてきた歓喜で震える。

「ラファ」

上質な、絹のような漆黒の髪。
見上げてくる、黒曜石の瞳。
そのどれもが、愛しくて仕方がないと全身の細胞が叫ぶ。

「ラファエル」

地上に生きる黒衣の天使に相応しい、美しい名。
外見だけではなく、内面から迸るその光は神々しく、どこまでも凛と静謐に輝く。

「俺の、天使」
「そんなに何度も呼ばなくても、聞こえていますよ」

意味もなく名を呼ぶライに、ラファエルはふっと漆黒の瞳を細めた。
その苦笑とも微笑とも取れる彼の表情さえも、愛しいと感じる。

「ラファエル」
「はい、何ですか?」

まるで、神に仕えるために生を授かったかのように、彼は天使の名を与えられた。
彼のために創られたかのように響く、その音、その言の葉、その単語。

それを紡ぐ度に、彼はお前とは生きる世界が違うのだ、と咎められているかのような錯覚を受ける。
血に濡れたその手で、罪を背負うその身体で。
その汚れた命で、穢してはならない存在なのだ、と。

「……」
「…もう呼んでくださらないのですか?」
「……」
「私の名前を紡いでくれるあなたの声、好きですよ」

だから、もっと呼んでください。

そう続けた彼に、ライは思わず瞠目した。
羽衣で抱擁するかのように、漆黒の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
白く細い手が伸ばされ、するりと頬を撫でられた。
饒舌な瞳が、「何も言わなくてもいい」と言う。

「お前は…」

何も聞かず、何も問わず。
それでいて、全てを見通してしまっているというのか。

激しい愛しさが込み上げ、ライは同時に恐怖を感じた。
一体、お前の瞳はどこまで見通しているというのか、と。

「少し弱っているあなたも、嫌いじゃないですよ」

普段は見せない、年相応の幼い笑みが向けられる。
そして、悪戯を仕掛けた子どもがその成功に喜びの声を上げるかのように、楽しそうに言う。

「ふふ、可愛い」

あぁ、もう完敗だ。
何て愛しいのだろう。
ライは額に手を当て、天を仰いだ。

まるで、赦しを与えるかのように、彼は自分の名を呼べと言う。
硝煙と血の匂いを纏わせ、抱きしめるその腕を拒むことなく、ライ自身でさえも気付いていない胸中にある葛藤をそっと包み込む。
そうして、甘く優しい言葉で、赦すのだ。

「今日は、うんと甘やかしてあげますよ。可愛いあなたのために」

するりと伸びてきたラファエルの腕が、首に絡みつく。
抱きしめているのは自分だというのに、抱きしめられているような感覚が、ひどく心地良い。

この腕に、この温もりに、彼という存在全てに、どれほど自分が救われているか。
いつか、彼に話そうと思う。
闇に染まりきった自分の、唯一の光なのだ、と。
お前が居るから、俺はここに居るのだ、と。

「私を、愛してください」

緩く弧を描いた唇が、そっと重なる。
それは触れるだけの拙い口付けだったが、ライは言いようのない幸福感に包まれた。

因果を謳う死神が嘲笑う声が聞こえた気がしたが、目を逸らして耳を塞ぐ。
今だけは。
せめて、今だけは。
神が癒し給うた、輝ける者にして祈りと平和の美しいこの天使を。
自分を生かす理由と根拠そのものであるこの最愛の存在を、許された命の限りを尽くして愛したい。

罪と掟に縛られ生きる男のその懇願によく似た祈りを、醜いオルクスが嘲笑する隣で穏やかに微笑む美しいテミスだけが祝福していた。

  いつか本当に廻り逢う奇蹟が赦されたなら、限りない祈りを捧げて生きよう


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ラファエルは無言の愛を捧げるタイプ。
多くを言わない、聞かない。その代わりに、想いを静かに寄せる。

アーラ(ala/イタリア語・ラテン語)=翼
2009年4月3日弱ったボスを初出/弱ったボスに改めて萌えた2013年1月18日再出


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2013-01-18
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