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君の胸の真中にあったのは

世界は、何かを中心に回っているという。
それは物であったり、人であったり。
世界は、何かを中心にしないと、回らない。

「たとえばこの地球も、太陽を公転に回っているんだよ。だから、日が昇り、日が沈む」
「へぇ」

僕の話に耳を傾けていた彼は、「うん」とか「そうなんですか」と曖昧な相槌を打っている。
分かっているのか、分かっていないのか。
それとも、興味がないのか。
何にしろ、彼とこんな風に言葉を交わすことは少なく。
ついつい、いつも以上に饒舌になってしまう。

「大鳥さん、」
「ん?何だい」
「日本にとっての中心って、何ですか?」

唐突な質問に、僕は面食らった。
それはとてつもなく簡単なことのようで、とても難しい質問だ。

日本の中心。
それを、天皇だと言う者と徳川だと言う者が争い、今こうして戦っているのは事実だ。
僕たちは後者に属し、この日本で戦っているのもまた事実。
しかし、果たしてそれが正しい答えだろうか、と思う。

日本の中心は天皇であるべきなのか。
日本の中心は徳川であるべきなのか。
その疑問はこの戦いそのものを否定し兼ねないが、きっと誰にも、どちらが正しいとは言えないだろう。

「……」
「それでいい」
「え?」
「あなたは、それでいいんです」

唐突な質問を投げてきた彼はそう言って、答えられずにいた僕に満足そうな笑みを浮かべて見せた。
そして、腰に据えている愛刀の柄を撫でながら、彼は口許に微笑を浮かべたまま続ける。

「あなたは…あなたたちは、この戦いそのものに疑問を抱き続けてください」
「それは、どういう意味だい?」
「そのままの意味ですよ」
「……?」
「天皇でも徳川でもない、日本の中心を本気で考え続けるあなたたちでいてください」

“あなたたち”、と複数形で。
それが僕以外の誰を指しているのか分かってしまって、慌てて気付かなかった振りをする。
だが、彼はそうさせてくれるほど中途半端な優しさは持っておらず、「榎本さんも、松平さんも」と自分たちの上に立っている2人の名前を紡ぐ。

「…僕は、君もそうだと思うけれど…」
「私は違います」

きっぱりと否定する彼に、僕はそれを否定したい衝動に駆られた。
違うことなどない。
君ほどこの国を想い、この国のために戦ってきた者はいない、と。
本気でこの国の先行きを考え続けられる君こそが、必要なのだ、と。

だが、そう言うことはできなかった。
彼があまりにも綺麗に、全てを見通している美しくも哀しげな眼差しで、微笑むものだから。

「土方君、君は…」
「いいんですよ。あなたたちはあなたたちのままで。そうして、私は私のままでありたい」
「……そうだね、君は君だから強い」

たとえそれが何であれ、誰であれ、彼の中心にあるものは揺らぐことがない、と嫌でも痛感する。
僕が何を言ったところで、請い願ったところで、揺らぐほどのものではない、と。

あぁ、彼が戦場を駆ける後を追う兵士たちがあれほどに生き生きとしているのは、彼が常勝将軍と渾名されているからではない。
その身の内から迸る眩い光が、彼らを導いているからだ。
死地に差し込んだ一筋の強靭な、鮮烈な光が、生へと。
それほどの光を、誰に穢すことができようか。
近寄ることさえ憚らせるほどの、直視できないほどの眩さを放ちながら歩んでいく彼の足を、誰に止めることができようか。

「でも…でもね、君が中心そのものであることを、忘れちゃいけないよ」

それを失った地球がそうなるように、喪失が破滅を招くだけの存在であることを。
中心とはそういうものなのだと言った僕に彼は一瞬だけ瞠目し、すぐにはっとさせられるほど美しい笑みを重ねた。

「失くしたくらいで破滅するような、そんな生温い存在ではありません」

互いに、と。
そう付け加えた彼の力強い声音に、彼らが己の全てを捧げてまで彼の元に集った理由を。
彼の元から決して離れようとしない理由を。
その根本にあるものを、分かった気がした。
縋っているのでも、寄り添っているのでもなく。
あぁ、何て理想的な相互関係だろうか、と思う。

親と子の間にあるものよりも強く、深く。
それを手に入れることができる者は圧倒的に少ないというのに、彼らはみな等しくそれを手にしている。
何て、幸せなことだろう。
しかし、同時に。
これから彼らが背負わなければならない喪失感の大きさに胸が痛む。

「形を失っても残るものはあるかもしれない。でも、彼らは苦しむよ」
「えぇ、分かっています」
「遺される痛みを、君は知っているだろう?」
「それを抱えて生きていく強さがあると、信じていますから」

ふと、自分はどうだろうかと思った。
確かに、伝習隊の面々は僕を慕ってくれている。
こんな北の果てまで付いて来てくれた。
だが、僕は彼のように全幅の信頼を寄せていると言えるだろうか。

もちろん、信頼はしている。
大切な存在だ。
しかし、彼のように、そこまで深く共存しているかと問われたら、きっと。
頷けない。

「…新選組は強いはずだね」
「何ですか、突然」
「うん。僕は今、彼らがとても羨ましい。島田君も相馬君も、安富くんたちも…君と出会えて幸せだね」

青狼と罵られ、鬼だと揶揄され、忌み嫌われていた鬼の副長。
彼らの瞳には、そう呼ばれることで巧妙に隠していた彼の本質が見えていたのだろう。

赤子が母を慕うが如し、と言っていたのは新撰組の誰だったか。
まさしく、彼らにとって彼という存在は赤子にとって唯一絶対のその存在に等しいに違いない。
でなければ、引き離された後も我武者羅に追ってなど来ない。

「榎本さんが言っていたよ。君たちが敵でなくてよかった、と」
「私もそう思いますよ。あなたたちは敵にしたくない」
「いいや。君たちが敵だったら、僕たちは今生きていないよ」

信じ、信じられ、そうして共存している人間は強い。
彼は彼らのために凛と背筋を伸ばして先頭に立ち、歩み続ける。
彼らは彼のためにどんなに困難な状況でも生に執着し、付き従う。
互いが互いのためにある存在というのは、何よりも人間を強くするものだ。

その分、それを失ったときの絶望は計り知れないが。
しかし、彼は「信じている」と言った。
たったその一言で、大き過ぎる喪失感と苦痛を抱えても生きていけるだけの強さが彼らにはあると確信させるだけの相互関係というものは、やはり何にも勝ると思う。

「君たちはすごいな。この国はそれをまだ見つけられていないというのに、君たちはもう持っている」
「えぇ。だから、あなたたちは探し続ければいいんです」
「見つけられなかったら?」
「見つけるまで、生きればいい」

いつか、いつか来る近い未来。
たとえば、僕たちがこの国の中心は何かと考える日が来るとする。
そのとき、僕はきっとその答えを残された命の全てを賭けても出せないと思う。
僕だけではない。
今この北の地で共に戦っている者にも、敵である者にも。
 
ただ、もしもそんな日が来たならば。
僕はたったひとつだけ、祈るだろう。

「君たちのように、想い想われることで強くなれる国になれば…」

そう祈り続ければ、この戦いが無意味なものになることなく。
この戦いで失われた命を冒涜することなく。
誰かにとって誇れるだけの、誰かにとっての中心として在れる存在になれるだろうか。

「きっと、なりますよ。あなたたちが諦めなければ」
「そこに自分も居ると、言ってはくれないんだね」
「私の居場所は、そこではありませんから」

この地球のどこかで、今誰かにとって大切な誰かが死んだとする。
今、誰かにとって望んだ誰かが産声を上げたとする。
そんな瞬間でも、時間は正確に刻まれ、季節は巡っている。
1日が幾度か繰り返され、花と共に春が訪れ、夏が緑を焦がし、雲が秋を乗せて来ると、大地を凍えさせる冬が春の種を抱いてやってくる。
それは、摂理。
目には見えないが、確かにそこにある何かを中心にして回っている真理。

あぁ、ならば。
ならば、この先に訪れる確かな絶望もまた必然なのか。
決して蹂躙を許さない領域にある眩い光を湛えた彼の瞳が。
希望を齎し、絶望を遺してゆく光が、僕を射抜く。

「ねぇ、大鳥さん」
「何だい」
「あなたの中心は、何ですか?」
「……」
「答えが見つかるまで、あなたは生きてください」

僕は君や彼らのように強くはない、と言いたかったが、今口を開けば言ってはいけないことも言ってしまう気がして。
君も生きろ、と。
遺される痛みを知っているのなら、彼らにそれを背負わせるな、と。
僕にはそんな資格がないと言うのに、そう言ってしまいそうで。

沈黙した僕に、彼はもう一度。
まるで、僕に言い聞かせるように。
祈りを口にするかのように。
「生きて」と言って、あまりにも綺麗に微笑んだ。

  それを失いたくないのに、失うことが定められている絶望的な未来が近付く


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新撰組の中心は土方さんなんです。子供たちにとってママが中心なんです。
そして、土方さんの中心は新撰組なんです。
そうじゃなきゃイヤだ!なんて駄々をこね続け、8年が経ちました。

2006年2月26日勢いだけで初出/2014年12月1日過去の自分の思考に悶えながら再出

*ブラウザを閉じてお戻りください


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2014-12-01
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